認知症の親が水道の蛇口を閉め忘れる。

これは、介護をしているご家族からとても多く寄せられる困りごとのひとつです。「何度言っても繰り返すんです」「つい怒ってしまって、自己嫌悪になる」というお声を、家族支援の現場で数えきれないほど聞いてきました。

まず知っておいていただきたいのは、蛇口の閉め忘れは「うっかり」や「不注意」ではないということです。認知症による記憶障害や注意機能の低下、つまり脳の変化によって起こるものです。ご本人の怠けでもなく、注意すれば直るというものでもありません。むしろ、叱責は混乱や不安を深めてしまい、逆効果になりやすいことがわかっています。

では、家族としてどう対応すればいいのか。この記事では、今日からできる応急的な対策から、自動水栓や見守りセンサーの導入まで、すぐに試せる5つの対策と、グッズを選ぶときに失敗しやすい注意点をまとめました。

社会福祉士として認知症のご家族を支援してきた経験から、単なるグッズの紹介ではなく、認知症の段階に合った対策の選び方という視点でお伝えしていきます。焦らなくて大丈夫です。一つずつ、できるところから確認していきましょう。

認知症で水道を閉め忘れるのはなぜ?まず知っておきたいこと

閉め忘れは「うっかり」ではなく脳の機能変化によるもの

水道の閉め忘れが繰り返されると、「どうして何度言ってもわかってくれないのか」と感じるのは自然なことです。ただ、この閉め忘れの原因は、不注意や怠けではありません。認知症の中核症状である記憶障害、注意機能の低下、実行機能障害が直接関わっています。

私たちは普段、「水を出す→手を洗う→蛇口を閉める」という動作を無意識に順序立てて行っています。認知症が進むと、この一連の動作を組み立てて実行する力が低下します。水を出したこと自体を忘れてしまう場合もあれば、水を出している最中に別のことに意識が移ってしまう場合もあります。さらに、水が流れている音にも気づきにくくなることがあり、聴覚の変化や注意の集中が難しくなっていることが背景にあります。

大切なのは、ご本人には「閉め忘れた」という自覚がほとんどないということです。叱っても改善にはつながりにくく、むしろ不安や混乱を強めてしまう可能性があります。

家族支援の現場で見てきたのは、叱責が繰り返されるうちに、ご本人が水回りを使うこと自体を怖がるようになり、活動量が減って認知症がさらに進行するという悪循環です。「何度言ってもダメ」と苛立つ気持ちはとてもよくわかります。けれど、その苛立ちを抱えたまま無理を続けるよりも、仕組みで解決する方法を知っていただくほうが、ご家族にとっても親御さんにとっても楽になれると思います。

放置するとどんなリスクがある?

対策を考える前に、閉め忘れを放置した場合にどんなことが起こり得るかも確認しておきましょう。

まず気になるのが水道料金です。蛇口を中程度の勢いで出しっぱなしにすると、1分間で約10リットルの水が流れます。仮に24時間気づかなかった場合、従量料金だけでおよそ2,880円。3日間そのままであれば約1万円の出費になることもあります。

水があふれた場合のリスクも見過ごせません。シンクや洗面台から水が溢れると、床の腐食やカビの原因になります。マンションやアパートにお住まいの場合は、階下への浸水で損害賠償の問題に発展するケースもゼロではありません。

もうひとつ意識しておきたいのは、水道の閉め忘れが起き始めた時期には、ガスの消し忘れや電気のつけっぱなしも並行して起きている可能性が高いということです。水道の問題だけに目を向けるのではなく、生活全体の安全を見渡すきっかけとして捉えていただくとよいかもしれません。

ただし、過度に心配しすぎる必要はありません。水道の閉め忘れは、ガスの消し忘れと比べると命に直結するリスクは低いです。冷静に一つずつ対策を進めていけば大丈夫ですので、次の章で具体的な方法を見ていきましょう。

家族がすぐに試せる「水道閉め忘れ対策」5選

対策①|元栓(止水栓)を絞って「被害を最小限にする」【費用0円】

最初にお伝えしたいのは、いちばん地味ですが、いちばん確実で即効性のある方法です。キッチンや洗面台の下にある止水栓を少し絞って、蛇口から出る水量を制限します。

完全に閉めるのではなく、「細い流れになる程度」に調整するのがポイントです。閉めすぎると日常の水回り作業に支障が出ますので、実際に使いながら加減を確かめてください。

この方法のメリットは、費用がゼロで今日すぐにできること。万が一出しっぱなしになっても、水量が少ないため料金の急増や浸水のリスクを大幅に抑えられます。デメリットとしては、水量が減ることで食器洗いに時間がかかったり、ご本人が「水が出にくい」と不満を感じたりする場合がある点です。

また、庭の水道や浴室の予備蛇口など、ふだん使っていない蛇口は元栓を完全に閉めてしまいましょう。

福祉の現場では、「リスクをゼロにする」ではなく「許容できる範囲に収める」という考え方を大切にしています。「完璧に防ぐ」ことよりも、「万が一起きても大きな被害にならない」という発想のほうが、ご家族にとっても親御さんにとっても無理がありません。

対策②|後付け自動水栓で「閉め忘れ自体を防ぐ」【5,000〜15,000円】

手をかざすとセンサーで水が出て、手を離すと自動で止まる自動水栓。中でも、一定時間(約30秒〜3分)で自動止水するオートストップ機能付きの製品が、認知症の閉め忘れ対策には向いています。

代表的な製品としては、IDEX社の「水ぴた」があります。後付け型自動水栓として知られており、約3分間で自動止水する仕組みです。工事不要で取り付けができ、電池が切れた場合も止水状態を維持する安全機能が備わっています。Amazonやモノタロウなどで購入可能です。同じIDEX社からはより簡易な「ピタップ」、ミナミサワ社からは立水栓用の「水すい」も販売されています。そのほか、USB充電式のセンサー蛇口アタッチメント(3,000〜8,000円程度)という選択肢もあります。

取り付け前には、ご自宅の蛇口の形状(泡沫水栓の外ネジ・内ネジなど)に対応しているかどうかの確認が必要です。

ここで一つ、現場でよくある注意点をお伝えしておきます。認知症が進行すると、自動水栓のセンサーの仕組み自体がわからなくなり、「水が出ない」と混乱してしまうケースがあります。介護の現場でも、病院の自動水栓の前で水の出し方がわからず戸惑うという状況は報告されています。TOTOも「認知症が進む前に早めのリフォームで機器の使い方に慣れるように」と推奨しています。

つまり、自動水栓の導入は「早め」がカギです。初期から軽度の段階で取り入れ、使い方に慣れてもらうのがベストです。中等度以降に初めて導入すると、かえって混乱を招くリスクが高まります。

対策③|水漏れセンサー・見守り機器で「出しっぱなし」に気づく【2,000〜10,000円】

遠方に住んでいてすぐに駆けつけられないご家族には、この方法が特におすすめです。

水漏れセンサーをシンクの下や洗面台の床に設置しておくと、水が溢れた際にアラームで知らせてくれます。さらに、SwitchBotなどのスマートホーム機器と連動させれば、離れた家族のスマホにLINEで通知が届く仕組みをつくることもできます。

見守りカメラを水回りに設置し、動体検知でスマホに通知を受けるという方法もあります。水の流れる音や映像から異変に気づくことができます。

一部の自治体では「スマート水道メーター」を使って、異常な使用量を検知し通知する実証実験も始まっています。お住まいの地域でこうした取り組みがないか、確認してみるのもよいかもしれません。

費用の目安としては、水漏れセンサー単体であれば2,000〜3,000円程度、スマートホームセンサーとの連動まで含めると5,000〜10,000円程度です。直接見守れなくても「異常があればすぐ気づける」という安心感は、離れて暮らすご家族にとって大きな支えになります。

対策④|貼り紙・リマインドシールで視覚的に注意喚起【費用0円】

蛇口のそばに「水を止めましたか?」と大きな文字で貼り紙をする方法は、費用もかからずすぐに試せます。文字だけでなくイラストや矢印を使うと、文字が読みにくくなった段階でも視覚的に伝わりやすくなります。目立つ色(赤や黄色)を使うのも効果的です。

ただし、この方法には明確な限界があることも正直にお伝えしておきます。認知症の進行に伴い、貼り紙の存在自体に気づかなくなったり、文字を読んでも意味が理解できなくなったりします。中には貼り紙をはがしてしまう方もいます。

ご家族の支援をしていて感じるのは、貼り紙が効かなくなったときに「自分のやり方が悪かった」と自責される方がとても多いことです。でも、効かなくなったのは対策が間違っていたのではなく、症状の段階が次に進んだということです。「貼り紙が効かなくなったら、次の対策に移るサイン」と前向きに捉えていただけたらと思います。

対策⑤|生活動線の見直しで「水を使うリスク場面」を減らす

「閉め忘れをどう防ぐか」とは少し視点を変えて、そもそも「水を使う場面」自体を安全に減らすことで、閉め忘れの機会を減らすという考え方もあります。

たとえば、食器洗いを食洗機に任せる、手を拭く場面ではウェットティッシュを活用する、飲み水はペットボトルやウォーターサーバーから準備しておく、といった工夫です。洗濯は全自動洗濯機を使い、家族がタイマーをセットしておけば、蛇口の操作が不要になります。使用頻度の低い洗面台や庭の水道は、元栓を完全に閉めておくのもよいでしょう。

ただし、ここで大切にしていただきたいのは、「水を使わせない」ことが目的ではないということです。自分で水を使えることは、ご本人の自立と尊厳に深く関わっています。「安全に使える場面は残しつつ、リスクの高い場面を減らす」というバランスを意識していただくことが大切です。

一目でわかる「5つの対策」比較表

対策費用目安導入しやすさ認知症の段階遠方の家族おすすめ
①元栓を絞る0円◎ 今すぐ可能全段階で有効△ 一度設定すればOK★ まずこれ
②自動水栓(後付け)5,000〜15,000円○ 工事不要のものあり初期〜中等度○ 設置後は自動
③水漏れ/見守りセンサー2,000〜10,000円全段階で有効◎ スマホ通知可能★ 遠方ならこれ
④貼り紙・シール0円初期〜軽度向け× 効果確認が困難
⑤生活動線の見直し場合による△ 工夫が必要全段階で有効

迷ったら、まず「①元栓を絞る」と「③水漏れセンサー」の組み合わせから始めるのがおすすめです。費用も手間も最小限で、出しっぱなしの被害を抑えつつ異常にも気づけます。自動水栓の導入を検討される場合は、この2つで応急対策をしたうえで、じっくり商品を選んでいただければ大丈夫です。

対策で失敗しないために知っておきたい3つの注意点

認知症の進行度で「合う対策」は変わる──段階別の選び方

水道の閉め忘れ対策を選ぶうえで最も大切なのは、「今の親の状態に合っているかどうか」という視点です。ネットの口コミで評価が高い商品であっても、認知症の段階によっては合わないことがあります。

初期(軽度)の段階であれば、貼り紙や声かけ、自動水栓の導入がいずれも有効です。ご本人の理解力が残っているこの時期に、新しい機器の操作に慣れてもらうのが理想的です。

中等度になると、貼り紙の効果は薄くなります。元栓の調整や自動水栓といった環境そのものを変える対策と、見守り機器の組み合わせが必要になってきます。自動水栓を初めて導入するなら、この段階がギリギリのタイミングです。

重度に進行した場合は、ご本人が一人で水を使う場面を大幅に制限し、訪問介護のヘルパー等がサポートする体制を整えることが中心になります。使わない蛇口は元栓を閉め、見守りセンサーで異常を検知する仕組みで対応します。

現場で最もよく見る失敗は、認知症がある程度進行してから自動水栓を導入し、ご本人が使い方を理解できずに混乱してしまうケースです。「高い買い物だったのに…」と落胆されるご家族も少なくありません。対策を選ぶときは、「今の親の段階に合っているか」を基準にしてみてください。

「新しいもの」を入れると混乱する──環境変化は最小限に

認知症の方にとって、長年慣れ親しんだ環境が変わることは、私たちが想像する以上に大きなストレスになります。蛇口の形が変わっただけで「水の出し方がわからない」と混乱されるケースは、実際に少なくありません。

対策を考えるときの原則は、「見た目や操作が今までとできるだけ変わらない方法」をまず検討することです。やむを得ず水栓を交換する場合も、今まで使っていたものにできるだけ近い形状・操作感のものを選ぶことが最優先です。ある介護ブロガーの方は、認知症のお母様のために「限りなく近いモデル」を選び、工事費込みで7万7千円をかけましたが、「金額より母が使えることを優先した」と語っています。

導入後は数日間、ご本人が問題なく使えているかどうかを必ず観察してください。

現場で耳にするのは、「良かれと思って最新のタッチレス水栓に替えたら、母が戸惑って泣いてしまった」というお話です。ご家族の善意とご本人の混乱のギャップは、介護の中で最もつらい場面のひとつです。「親のために」という気持ちは大切ですが、「親が使えるかどうか」を軸に判断することで、こうしたすれ違いを防ぐことができます。

水道だけでなく「ガス・電気・鍵」もセットで見直す

水道の閉め忘れが起き始めた時期には、同時にガスの消し忘れ、電気のつけっぱなし、鍵の閉め忘れといった他の「閉め忘れ・消し忘れ」も並行して起きている可能性が高いです。水道の問題に対処できたら、ぜひ生活全体の安全も見渡してみてください。

特にガスについては、認知症による火の消し忘れは火災につながるリスクがあり、水道よりも優先度が高いといえます。安全装置付きのガスコンロへの交換や、IHクッキングヒーターへの切り替えを検討されることをおすすめします。ガス会社やケアマネジャーに相談すれば、対応方法を一緒に考えてもらえます。

電気については、人感センサー付き照明やタイマー付きコンセントの導入、電気ストーブの転倒時自動オフ機能の確認などが有効です。鍵の閉め忘れや外出時の徘徊が心配な場合は、オートロックキーやスマートロックの導入も選択肢になります。

家族支援の現場では、水道の閉め忘れのご相談を受けたとき、「他に困っていることはありませんか?」と必ずお聞きするようにしています。水道はあくまで一つのサインです。安全対策の優先順位としては、ガス(火災リスク)、鍵(徘徊リスク)、電気、水道の順に考えるのが現実的です。すべてを一度にやる必要はありませんが、この機会に親御さんの暮らし全体を見直すきっかけにしていただけたらと思います。

一人で抱え込まないで──相談先と「次の一歩」

困ったときの相談先を知っておくと安心です

水道の閉め忘れへの対策を進める中で、「自分たちだけで対応しきれるだろうか」と感じたら、遠慮なく専門の窓口を頼ってください。

まず知っておいていただきたいのが、地域包括支援センターです。介護や見守り、権利擁護など、高齢者の暮らし全般について無料で相談できる窓口です。認知症による生活トラブルの相談も日常的に受け付けています。「水道の閉め忘れくらいで相談していいのだろうか」と遠慮される方が多いのですが、むしろ早い段階で相談してもらえたほうが、支援の体制を組みやすいのが実情です。

介護認定を受けている方であれば、担当のケアマネジャーにも相談できます。住宅改修や福祉用具に関するアドバイスが受けられますし、自動水栓の設置が介護保険の住宅改修に該当するかどうかも、まずケアマネに確認してみてください。ケースによって対応が異なります。

認知症による出しっぱなしで水道料金が急増した場合は、水道局に事情を説明すると減額対応をしてくれる自治体もあります。保証はありませんが、相談してみる価値は十分にあります。

なお、水回りの修理を業者に依頼する際は、高額請求トラブルが多い分野ですので注意が必要です。大手のホームセンター経由など、信頼できるルートで依頼するようにしてください。万が一トラブルに遭った場合は、消費者ホットライン(電話番号188)に相談できます。

水道の閉め忘れは「在宅生活を見直すサイン」かもしれません

水道の閉め忘れが頻繁になってきたということは、認知症が「日常生活に支障が出るレベル」に進行しているサインかもしれません。

ただし、今すぐ一人暮らしをやめなければならないということではありません。訪問介護を導入する、あるいは回数を増やして水回りの確認をヘルパーに依頼する。デイサービスを利用して日中の安全を確保しつつ、ご家族の休息時間をつくる。見守りサービスやIoT機器を本格的に取り入れる。こうした「見守り体制の強化」と「環境の安全化」を並行して進めていくのが、現実的なアプローチです。

水道の閉め忘れ対策を調べて、ここまで読んでくださっているあなたは、すでに親御さんのために大切な一歩を踏み出しています。完璧な対策を一度に揃える必要はありません。できることから一つずつ。まずは元栓を少し絞ることからでも十分です。

将来の実家の片付け・遺品整理も、先に「相談先」を知っておくと安心です

認知症の親御さんの在宅生活を支えているご家族の中には、「いずれ施設に入ることになったら実家はどうするか」「将来の遺品整理のことも気になる」と感じ始めている方も多いのではないでしょうか。

今すぐ行動を起こす必要はありません。ただ、「いざというときに相談できる場所がある」と知っておくだけで、漠然とした不安はずいぶん和らぎます。

実家の片付けや遺品整理は、専門の業者に相談することができます。将来的に検討される際は、見積もりが無料で追加料金の条件が事前に明示されているかどうか、遺品整理士の資格や業界団体への加盟など信頼性の根拠があるかどうか、そして認知症のご家族への配慮や丁寧な対応姿勢があるかどうか、この3つを確認していただくと安心です。

当ブログでは、遺品整理業者の選び方、生前整理の進め方、デジタル遺品の整理方法についても記事をまとめています。今すぐでなくても、気になったタイミングであわせてお読みいただければ幸いです。