冷蔵庫に鍵は必要?認知症の過食・盗食に家族ができる5つの対策と後悔しない判断基準
認知症の親が冷蔵庫を何度も開けて食べ物をあさる、食事をしたばかりなのに「食べていない」と言い張る。
そんな状況に疲弊し、「冷蔵庫に鍵をかけるしかないのか」と検索された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
冷蔵庫に鍵をかけることに抵抗を感じる方は多いと思います。「まるで閉じ込めるようで申し訳ない」「身体拘束にならないだろうか」という罪悪感は、親御さんを大切に思うからこそ生まれるものです。その気持ちは、決しておかしなことではありません。
認知症による過食や冷蔵庫あさりは、介護の現場で非常によく寄せられるご相談のひとつです。マヨネーズを直接口にしていた、食べ物ではないものが冷蔵庫に入っていた。驚くような出来事も、ご家族の間では珍しくありません。「うちだけがおかしいのでは」と思い詰める必要はないのです。
この記事では、冷蔵庫ロックの種類と選び方だけでなく、鍵をかける前に試しておきたい工夫や、「鍵をかけてもいいのか」を判断するための考え方もあわせてお伝えしていきます。社会福祉士として認知症のご家族の食事トラブルに多く携わってきた経験から、商品紹介だけでは終わらない、ご家族が安心して判断できる情報をまとめました。焦らず、一つずつ確認していきましょう。
認知症の親が冷蔵庫を開けてしまう──まず理解しておきたいこと
なぜ何度も冷蔵庫を開けるのか?──過食・盗食の原因
対策を考える前に、まず「なぜこの行動が起きるのか」を知っておくと、気持ちの整理がしやすくなります。
認知症の代表的な周辺症状(BPSD)のひとつに「過食」があります。主な原因は、食べたこと自体を忘れてしまう記憶障害と、満腹中枢の機能低下です。親御さんが「食べていない」「お腹が空いた」と訴えるのは、嘘をついているわけではありません。ご本人にとっては、本当にそう感じているのです。ここで否定してしまうと、怒りや不安をかえって強めてしまうことがあります。
食事の直後にまた冷蔵庫を開ける、夜中に起きて食品を食べ尽くす、マヨネーズや調味料を直接口にする。こうした行動は認知症介護の現場では典型的なものです。特に前頭側頭型認知症(ピック病など)の場合は食行動の変化が顕著で、極端に甘いものを欲しがったり、毎日同じものばかり食べ続けたりすることがあります。
ご家族から「うちの親だけがこんなことをするのでしょうか」と聞かれることが少なくありませんが、冷蔵庫あさりは認知症介護で非常によくある困りごとです。決して珍しいことではありませんので、どうかご自身を責めないでください。
冷蔵庫あさりを放置するとどんなリスクがある?
とはいえ、冷蔵庫あさりがそのまま続くと、いくつかの面で心配なことが出てきます。ここでは過度に不安をあおるのではなく、「知っておくと対策を考えやすくなる」という視点で整理しておきます。
まず健康面では、カロリーや塩分の過剰摂取が気になります。肥満や血糖値の上昇につながりやすく、糖尿病をお持ちの方の場合は特に注意が必要です。
次に、食品以外のものを口にしてしまう「異食」のリスクです。冷蔵庫に入れてあった芳香剤、保冷剤、洗剤などを食べ物と間違えて口にしてしまうケースは実際に報告されており、命に関わる場合もあります。
食品衛生の面では、食べかけのものを冷蔵庫に戻す、期限切れの食品を食べてしまう、冷凍食品を解凍したまま放置するといった問題が起こりやすくなります。
そして見落とされがちですが、介護をされるご家族への影響も深刻です。夜中の冷蔵庫あさりが続くと家族の睡眠が削られ、心身の疲弊に直結します。また、過食によって排便のリズムが崩れると、トイレまわりの介護負担がさらに増えるという悪循環にもつながります。
こうしたリスクを踏まえたうえで、次の章では具体的な対策を見ていきましょう。
冷蔵庫の鍵を検討する前に──まず試したい3つの工夫
食品の置き方・見せ方を変える
冷蔵庫に鍵をかけることを考える前に、まず試していただきたい工夫があります。いきなり鍵をかけるよりも、段階的に対策を進めるほうが、親御さんにとってもご家族にとっても負担が少なく済むことが多いです。
最初に取り組みやすいのは、冷蔵庫の中身の「見せ方」を変えることです。食品を透明なタッパーではなく、中が見えない不透明な容器に入れ替えてみてください。冷蔵庫を開けても「食べ物がない」と認識して、そのまま閉めてくれるケースがあります。
食べられても問題のない少量の軽食。小さなお茶や低カロリーのゼリーなどだけを見える場所に置き、それ以外は目につかないように保管するのも効果的です。
特に気をつけたいのが調味料です。マヨネーズやソース、ケチャップなどを直接口にされると、塩分やカロリーが一気に跳ね上がります。冷蔵庫とは別の場所に保管するだけで、リスクを大幅に減らせます。あわせて、冷蔵庫の中に食品以外のもの(保冷剤、芳香剤、洗剤など)が入り込んでいないかも定期的に確認してください。
この方法のよいところは、「鍵をかけずにリスクだけを下げる」という発想にあります。親御さんの自由を完全に制限せずに済むので、まず最初に試してみる価値があると思います。
食事回数を増やして「空腹感」を和らげる
もうひとつ効果が期待できるのが、食事の回数を調整する方法です。1日3食を1日5食に分け、1回あたりの量を少なくします。1日の総カロリーは変えずに、食べる回数だけを増やすイメージです。こうすることで、「お腹が空いた」と感じる時間を減らすことができます。
食後すぐに食器を片付けず、ご本人の前にしばらく残しておくのも一つの工夫です。「さっきこのお皿で食べましたよ」と見せることで納得される場合があります。
また、おにぎりやパンなどの軽食をあらかじめ用意しておき、「お腹が空いた」と言われたらすぐに渡せるようにしておくと、冷蔵庫に向かう前に対応できます。「食べていない」と言われたときに「さっき食べましたよ」と否定するよりも、「そうですか、じゃあこれをどうぞ」と少量を渡すほうが、言い合いを避けられて、結果的に摂取量もコントロールしやすくなります。
ただし、糖尿病など食事制限がある方の場合は、食事の分け方について主治医やケアマネジャーに相談のうえで進めてください。
活動や気分転換で「食べること」以外に意識を向ける
認知症の方の過食は、単純な空腹だけが原因ではないことがあります。退屈、不安、ストレスといった気持ちが引き金になって、冷蔵庫に向かってしまうケースも少なくありません。
簡単な家事を一緒にする、散歩に出る、好きなテレビ番組を見る、手芸や折り紙を楽しむなど、食事以外の活動で「することがある状態」をつくることが効果的です。デイサービスを利用すると、日中の活動量が増え、規則正しい食事のリズムを維持しやすくなるという効果も期待できます。
「冷蔵庫を開けに行く」という行動の裏には、「何かしたい」「退屈だ」「なんとなく不安」という気持ちが隠れていることが多いと感じます。食べ物を取り上げるのではなく、食べること以外の「満足」を見つけてあげるのが理想です。
もちろん、これらの工夫だけですべてが解決するわけではありません。試してみても難しい場合は、次の章でお伝えする冷蔵庫ロックの活用も含めて、段階的に対策を検討していきましょう。
認知症対応の冷蔵庫の鍵──種類・選び方・失敗しないポイント
冷蔵庫ロックの主な種類と特徴
前章の工夫を試しても難しい場合や、異食などの安全リスクが高い場合は、冷蔵庫にロックをかけることを具体的に検討する段階です。ここでは主な冷蔵庫ロックの種類と特徴を整理します。
まず最も安価なのが粘着テープ式(ベビーガード型)です。500〜1,500円程度で手に入り、粘着テープで貼り付けるだけで取り付けも簡単です。ただし、幼児向けに設計されたものが大半で、認知症の大人に対しては強度が不十分なことが多いです。力で引きはがされたり、ガタガタ揺すって壊されたりしたという報告が実際に複数あります。
認知症対策として最も実績があるのが、ダイヤルロック式(ワイヤー型)です。冷蔵庫のドアハンドルにワイヤーを通し、ダイヤル式の暗証番号で施錠します。3,000〜5,000円程度で、大人の力でも簡単には開けられない強度があります。鍵を持ち歩く必要がなく、暗証番号だけで開閉できる手軽さも魅力です。全長3mのワイヤーであれば、大型冷蔵庫にも対応可能です。
鍵付きロック(南京錠型やシリンダー型)は、物理的な鍵で開閉するタイプで2,000〜5,000円程度です。強度は高いですが、鍵を紛失するリスクがあり、家族が複数人いる場合は鍵の管理が煩雑になりがちです。
マグネット式は、専用のマグネットを近づけるとロックが解除される仕組みで、2,000〜4,000円程度。マグネットを持っていない人には開けられないため、見た目がすっきりしているのが特長です。
ボタン式(オートロック型)は、ドアを閉めると自動でロックされ、ボタン操作で解除するタイプです。2,000〜4,000円程度で、常時ロックとノーマルオープンの切り替えができる製品もあります。
認知症対策で冷蔵庫ロックを選ぶときの5つのチェックポイント
製品を選ぶ際に確認しておきたいポイントが5つあります。
ひとつ目は、強度が十分かどうかです。認知症の方は子どもと違い、握力も体力もあります。粘着テープ式の簡易ロックでは壊されてしまう可能性が高く、「ベビーロックを高い位置に貼ったが壊された」「踏み台を持ってきて開けられた」という報告も実際にあります。
ふたつ目は、家族が開けるのに手間がかかりすぎないかです。冷蔵庫は毎日何度も開閉するものですから、鍵の開け閉めが面倒で家族のほうがストレスを感じてしまう、というのはよくある失敗です。ダイヤル式であれば鍵を持ち歩く必要がなく、比較的スムーズに使えます。
みっつ目は、自宅の冷蔵庫の形状に対応しているかどうかです。観音開き、片開き、引き出し型など、冷蔵庫の種類によって取り付けられるロックが異なります。購入前に必ず確認してください。
よっつ目は、取り外し跡が残らないかどうかです。粘着テープ式は剥がした後に跡が残ることがあり、賃貸住宅の場合は特に注意が必要です。
いつつ目は、ロックをかけた後にご本人が混乱したときの対応を、事前に考えているかどうかです。鍵をかけた直後に「開かない!」と混乱されるのはほぼ確実といえます。そのときにどう声をかけるか、代わりに何を渡すかを、家族やヘルパーと事前に共有しておくこと。これが導入を成功させるいちばんのカギです。
「鍵をかけるのは身体拘束では?」──罪悪感との向き合い方
冷蔵庫にロックをかけることについて、「これは身体拘束にならないだろうか」と心配される方は少なくありません。この点について、率直にお伝えしておきます。
結論から言えば、在宅介護における冷蔵庫のロックは法律上の「身体拘束」には該当しません。身体拘束は介護施設における法的な規制であり、在宅での安全対策としての環境整備はその範囲に含まれないとされています。
それでも、「親の自由を奪っているのではないか」という罪悪感を抱くのはごく自然なことです。多くの介護家族が同じ感情を経験しています。
現場では、介護職の方から「冷蔵庫にロックをかけるのはよくない」と言われたというご相談を受けることもあります。ご本人の自由を尊重するのは理想ですが、自由を尊重した結果、過食で体調を崩す、異食で命が危うくなるというのであれば、安全を優先することは「守ること」であって「拘束」ではないと考えています。ある遠距離介護を続けているブロガーの方も、「理想だけでは遠距離の在宅介護は続けられない」「無駄なケンカが減れば認知症介護的にはプラス」と語っています。これは現場のリアルな声だと思います。
判断に迷ったときの基準はシンプルです。「鍵をかけないことで、本人の健康や安全に明らかなリスクがあるかどうか」。それに当てはまる場合は、鍵をかけることがご本人を守る選択です。罪悪感がぬぐえないときは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに「この対応で合っていますか」と確認してみてください。専門家に「大丈夫ですよ」と言ってもらえるだけで、気持ちはずいぶん楽になります。
一人で抱え込まないで──相談先と「この先」を考えるヒント
冷蔵庫の問題で困ったときの相談先
冷蔵庫の鍵や食事トラブルについて、一人で悩み続ける必要はありません。頼れる相談先を知っておくだけで、気持ちの余裕が変わります。
介護認定を受けている方であれば、まず担当のケアマネジャーに相談してください。食事トラブルへの対応策を一緒に検討できますし、ヘルパーの訪問時間に食事の準備を組み込む、デイサービスの利用回数を増やすなど、介護プランの変更も相談可能です。
まだ介護認定を受けていない場合は、地域包括支援センターが最初の窓口になります。無料で利用でき、認知症にまつわる生活トラブル全般について助言をもらえます。
過食が急に始まった場合や、食行動に極端な変化が見られた場合は、主治医への相談も大切です。認知症の種類や進行度の再評価が必要なケースもあり、特に前頭側頭型認知症は食行動の変化が特徴的です。
また、認知症カフェや家族会も貴重な情報源になります。同じ悩みを持つ介護家族と経験を共有でき、「冷蔵庫の鍵、うちはこうしている」といった実践的な話が聞けることもあります。
「冷蔵庫の問題くらいで相談していいのだろうか」と遠慮される方が多いのですが、食事トラブルは介護の中でもストレスが非常に大きい領域です。むしろ早めに相談していただきたいと感じています。
冷蔵庫あさりが頻繁になったら──在宅介護の見直しサイン
冷蔵庫あさりや過食が頻繁になってきた場合、それは認知症が「中等度以上」に進行しているサインのひとつかもしれません。鍵で一時的に対処できても、認知症の進行とともに排泄トラブルや徘徊、夜間のせん妄など、別の問題が出てくる可能性があります。
今すぐ施設入居を考える必要があるわけではありません。ただ、以下のような状況が見られたときは、介護体制の「見直し」を考えるタイミングかもしれません。鍵をかけても別の方法で食品を手に入れようとする(台所をあさる、外出先で買い食いをするなど)。夜間の冷蔵庫あさりが毎日続き、介護する側の睡眠が確保できない。食べ物ではないものを口にする異食が発生した。そして、介護をしているご自身の体調が崩れてきている場合です。
冷蔵庫の鍵を調べて、ここまで読んでくださっているあなたは、親御さんの健康と安全を真剣に考えている証拠です。鍵をかけることに罪悪感を感じる必要はありません。大切なのは、親御さんが安全に暮らせること、そしてあなた自身が倒れないこと。どちらも同じくらい大事です。
将来の実家の片付け・遺品整理も、先に「相談先」を知っておくと安心です
認知症の進行に伴い在宅生活の継続が難しくなると、施設への入居や実家の整理を考える時期がやってきます。「いずれ実家を片付けなければならない」「将来の遺品整理はどうすればいいのか」という不安を、漠然と抱えている方も多いのではないでしょうか。
今すぐ行動を起こす必要はありません。ただ、「いざというときに相談できる先がある」と知っておくだけで、精神的な余裕が生まれます。
実家の片付けや遺品整理は、専門の業者に相談することができます。将来的に検討される際は、見積もりが無料で追加料金の条件が事前に明確かどうか、遺品整理士の資格や業界団体への加盟など信頼性の根拠があるかどうか、そして認知症のご家族に配慮した丁寧な対応をしてくれるかどうか、この3つを確認していただくと安心です。
当ブログでは、遺品整理業者の選び方や生前整理の進め方についても記事をまとめています。今すぐでなくても、気になったタイミングであわせてお読みいただければ幸いです。
